暮らしの支援
「地域生活支援拠点等」とは?親が急病で支えられなくなったときの「緊急時の受け入れ」と「一人暮らし体験」――親なきあとを見据えた備えと大阪市の相談窓口
障がいのあるお子さんと暮らす親御さんが急な病気で支えられなくなったら、誰がお子さんを支えるのか。国が「親亡き後」を見据えて整備を進める「地域生活支援拠点等」(相談・緊急時の受け入れ・体験の機会など5つの機能)のしくみ、2024年4月施行の改正で市町村の努力義務になったこと、2027年3月末までの全市町村整備という国の目標と現状、大阪市の整備状況(各区の障がい者基幹相談支援センター、一人暮らし体験支援事業)を、厚生労働省・大阪市の案内に基づいて説明し、今できることを整理します。
「親なきあと」の前に来る、「親が急にいなくなる日」
厚生労働省の資料では、地域生活支援拠点等は「障害児者の重度化・高齢化や『親亡き後』を見据え」て、居住支援のための機能を地域の実情に応じて整備し、地域全体で障がいのある方の生活を支える体制をつくるものと説明されています。目的として、緊急時の迅速・確実な相談支援と短期入所などの活用により地域生活の安心感を担保すること、体験の機会を提供して施設や親元からグループホーム・一人暮らしなどへの移行を支援することの2点が挙げられています。 [1]
また、2025年6月の厚生労働省の会議資料では、拠点等が対応する「緊急事態」に、介護者(家族など)の障がいや疾病によって家族による支援が見込めなくなった場合が含まれると示されています。 [6]
地域生活支援拠点等とは:5つの機能と整備の形
厚生労働省の2019年の資料では、地域生活支援拠点等に求められる機能は次の5つとされています(2024年の通知でも、同じ機能を前提に事業が組み立てられています)。 [1] [5]
1. 相談
基幹相談支援センターなどにコーディネーターを置き、緊急時の支援が見込めない世帯を事前に把握・登録して、常時の連絡体制を確保し、必要なサービスの調整や相談支援を行います。
2. 緊急時の受け入れ・対応
短期入所(ショートステイ)を活用して常時の緊急受入体制を確保し、介護者の急病や障がいのある方の状態変化のときに受け入れ、医療機関への連絡などの対応を行います。
3. 体験の機会・場
施設や親元からの自立に向けて、グループホーム(共同生活援助)などの障害福祉サービスや、一人暮らしを体験できる機会と場を提供します。
4. 専門的人材の確保・養成
医療的ケアが必要な方、行動障がいのある方、高齢化で重度化した方に専門的に対応できる体制を確保し、人材を養成します。
5. 地域の体制づくり
コーディネーターを中心に、地域の多様なニーズに応えるサービス提供体制や、社会資源の連携体制をつくります。
整備の形には、5つの機能を集約してグループホームや障害者支援施設などに付加して整備する「多機能拠点整備型」と、地域の複数の機関が役割を分担して機能を担う「面的整備型」があり、両者を組み合わせるなど地域の実情に応じて整備できるとされています。同じ資料では、「緊急時の受け入れ・対応」の運営にあたって確認する事項として、本人の家族状況、障がいの特性、服薬情報、経済状況などを事前に登録するしくみの活用を検討しているかが挙げられています。 [1]
2024年4月施行の改正で市町村の努力義務に――国の目標と現状
根拠となるのは「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第104号)です。参議院の議案情報では、2022年(令和4年)12月10日に参議院本会議で可決されて成立し、同年12月16日に公布されたと記載されています。 [3]
厚生労働省の改正法の概要では、この改正の柱のひとつ「障害者等の地域生活の支援体制の充実」として、「基幹相談支援センター及び緊急時の対応や施設等からの地域移行の推進を担う地域生活支援拠点等の整備を市町村の努力義務とする」とされ、施行期日は原則として2024年(令和6年)4月1日です。同じ改正で、グループホームの支援内容に、一人暮らし等を希望する方への支援や退居後の相談が含まれることも法律上明確にされました。 [2] [4]
2024年3月29日付けの厚生労働省通知では、第7期障害福祉計画の国の基本指針において、2026年度末(2027年3月末)までの全市町村での整備やコーディネーターの配置などが成果目標とされていることが示されています。同通知は、拠点コーディネーターの業務として、緊急時の支援が見込めない世帯の事前把握・登録と常時の連絡体制の確保、短期入所・通所事業所などとの緊急受入体制の確保と受入調整や医療機関への連絡などを挙げています。 [5]
現状について、厚生労働省障害福祉課の調査資料では、2025年(令和7年)4月1日時点で、全国1,741市町村のうち1,292市町村(74.2%)が整備済み、449市町村(25.8%)が未整備とされています(前年の2024年4月1日時点は1,270市町村)。整備済みの拠点等のうちコーディネーターが配置されているのは約4割(859か所中342か所)と記載されています。つまり、国の目標は「全市町村」ですが、2025年時点では4分の1の市町村がまだ整備していません。 [7]
大阪市の整備状況と相談窓口
大阪市の案内では、大阪市は単一の拠点施設を設けるのではなく、事業者どうしが連携して地域を支える「面的な体制整備」の形で地域生活支援拠点等を整備しています。5つの機能の担い手は次のとおりです。 [8]
- 相談:各区の障がい者基幹相談支援センターが、福祉サービスの利用援助、社会資源の活用、ピアカウンセリング、権利擁護、専門機関の情報提供などを行います。
- 緊急時の受け入れ・対応:介助者が急病などで不在になったときに事業所の従事者が自宅を訪問した費用を支給する事業と、介助者不在で緊急に支援が必要な方を施設で一時的に保護する事業があります。
- 体験の機会・場:親などと同居する障がいのある方向けの一人暮らし体験と、施設入所者向けの計画的な外出支援を実施しています。
- 専門的人材の確保・養成:相談支援専門員向けの研修や、専門家(スーパーバイザー)の派遣を行います。
- 地域の体制づくり:各区の地域自立支援協議会で地域課題を検討し、基幹相談支援センターと他分野の相談機関との連携を強めます。
あわせて大阪市は、拠点機能の一部を担う障がい福祉サービス事業所を「登録事業所」として登録するしくみを設けています。登録事業所には、緊急時の支援が見込めない世帯の事前把握・登録と常時の連絡体制、短期入所を活用した常時の緊急受入体制、グループホームの利用や一人暮らし体験の機会の提供などの役割が求められ、一覧が公開されています。ただし同じ案内には、サービスの利用には区保健福祉センターでの支給決定と事業所との利用契約が必要で、自己負担が生じる場合があること、事業所の空き状況により希望に応じられないことがあることも書かれています。 [8]
相談の入口となる障がい者基幹相談支援センターは、大阪市の案内では各区に1か所ずつ、計24か所が設置され、社会福祉法人等に委託して運営されています。障がいのある方ご本人とご家族等が相談でき、福祉サービスの利用援助や権利擁護のための援助、専門機関の情報提供などを行うほか、障がい者虐待の通報・届出の受理や差別に関する相談も受け付けています。各センターの所在地・電話番号・ファックス番号は、大阪市のページに一覧があります。 [9]
「体験の機会・場」のひとつである大阪市一人暮らし体験支援事業は、実施要綱によると、親等の介護者と同居する大阪市内在住の在宅の障がいのある方で、親元などからの自立に向けた一人暮らし体験を希望する方が対象です。体験プログラムの作成、体験先の紹介、外出や宿泊の支援、必要な介助や見守りなどを行い、一連の支援はプログラムを最初に作った月から6か月以内・5回まで、体験の支援は通算15日間(宿泊は通算10泊)までとされています(延長の定めあり)。申込みは、大阪市から委託を受けた実施事業者に利用申込書を提出して行います。 [10]
知っておきたい注意点(未確認の点を含む)
- 「必ず受け入れてもらえる」制度ではありません。大阪市の案内にあるとおり、サービスの利用には支給決定と利用契約が必要で、事業所の空き状況によって希望に応じられないことがあります。拠点等は緊急時の受け皿を地域で確保しようとするしくみであり、特定の施設への受け入れを保証するものではありません。
- 整備の状況は市町村ごとに異なります。2025年4月時点で全国の4分の1の市町村が未整備で、整備済みでも形や内容は地域によって違います。大阪市以外にお住まいの方は、お住まいの市町村の障がい福祉の窓口で確認してください。
- 大阪市での「緊急時の事前登録」の具体的な手続は未確認です。国の資料では、緊急時の支援が見込めない世帯を事前に把握・登録することが相談機能の内容とされていますが、大阪市のページには、区ごとの緊急連絡先や事前登録の具体的な手続は記載されていませんでした。実際の進め方は、区の障がい者基幹相談支援センターでご確認ください。
- 一人暮らし体験支援事業の利用者負担は未確認です。実施要綱に書かれている金額は大阪市から実施事業者へ支払う委託料で、利用者ご本人が負担する費用の有無・金額は記載がありませんでした。申込先の事業者または大阪市の問合せ先でご確認ください。
- 「2027年3月末までに全市町村」は国の目標です。この目標は障害福祉計画の基本指針に基づく成果目標であり、期日までにすべての市町村で整備されることを約束するものではありません。
親なきあとに向けて、今できること
以下は公的な事実ではなく、当事務所からの編集上の提案です。
- 「親が入院したら」を、区の障がい者基幹相談支援センターに相談しておく。大阪市にお住まいなら、まず区のセンターに「親が急に入院したとき、子どもはどうなりますか」と相談し、緊急時の受け入れや事前登録のしくみ、使える事業について教えてもらう。すでに相談支援専門員がついている場合は、緊急時の対応をサービス等利用計画にどう反映できるか相談する
- ふだんから短期入所(ショートステイ)を使っておく。国の資料では、緊急時の受け入れに短期入所(ショートステイ)などを活用するとされています。緊急時に初めて知らない場所へ行くより、平時に利用の経験があるほうが、ご本人にとっても事業所にとっても負担が小さくなります。もちろん、これも支給決定と空き状況によります
- 「一人暮らし体験」を、親なきあとの練習として検討する。大阪市の一人暮らし体験支援事業のように、親元を離れて暮らす経験を少しずつ積む機会があります。ご本人の希望を聞きながら、体験の機会を相談してみてください。親なきあとの住まいの選択肢については 居住サポート住宅の記事 もご覧ください
- 緊急時に渡せる情報を、1枚にまとめておく。国の資料で事前登録の項目として挙げられている家族状況・障がいの特性・服薬情報・経済状況や、かかりつけ医、利用中の事業所、親族の連絡先などを整理しておくと、緊急時の相談がスムーズになります。整理の仕方は 本人の希望と暮らしを整理する相談メモ の記事を参考にしてください
- 親の入院中の「お金と契約」を誰が担うかを決めておく。緊急時の受け入れは福祉のしくみですが、その間のお子さんの生活費の支払い、親御さん自身の入院手続や支払いは別の問題です。お子さんの日常のお金の管理には 日常生活自立支援事業(大阪市のあんしんさぽーと事業)(利用できる条件は記事・窓口でご確認ください)、親御さん自身の判断能力が低下したときの備えには任意後見契約・見守り契約、親なきあとの財産の渡し方には遺言や民事信託を、あわせて考えてください
参考情報・出典
- 厚生労働省 障害保健福祉部障害福祉課「地域生活支援拠点等について ~地域生活支援体制の推進~【第2版】」資料の日付:2019年3月(平成31年3月)。対象地域:全国。参照箇所:拠点等の目的(「親亡き後」を見据えた居住支援の機能)、5つの機能、整備類型(多機能拠点整備型・面的整備型)、事前登録の検討事項。取得・確認日:2026年10月30日。
- 厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の概要」資料の日付:不明(資料に作成日の記載なし)。対象地域:全国。参照箇所:改正の柱(地域生活の支援体制の充実)、基幹相談支援センター・地域生活支援拠点等の整備の努力義務化、グループホームの支援内容の明確化、施行期日(原則令和6年4月1日)。取得・確認日:2026年10月30日。
- 参議院「議案情報 第210回国会 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案」資料の日付:不明(ページに更新日の記載なし)。対象地域:全国。参照箇所:衆議院・参議院の議決日(参議院本会議 令和4年12月10日可決)、公布日(令和4年12月16日)、法律番号(104)。取得・確認日:2026年10月30日。
- 厚生労働省「障害者地域生活支援体制整備事業」資料の日付:不明(ページに更新日の記載なし)。対象地域:全国。参照箇所:令和6年4月1日から基幹相談支援センターの設置と地域生活支援拠点等の整備が市町村の努力義務となった旨、第7期障害福祉計画の基本指針への位置付け、令和6・7年度のブロック会議・研修資料。取得・確認日:2026年10月30日。
- 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知「地域生活支援拠点等・ネットワーク運営推進事業の実施について」(障発0329第8号)資料の日付:2024年3月29日(令和6年3月29日)。対象地域:全国(各市区町村長あて)。参照箇所:令和6年4月1日からの法律上の位置付けと努力義務、第7期障害福祉計画の基本指針の成果目標(令和8年度末までの全市町村での整備・コーディネーターの配置)、拠点コーディネーターの業務。取得・確認日:2026年10月30日。
- 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「地域生活支援拠点等の機能の強化について」(令和7年度第1回都道府県等担当者・アドバイザー等合同会議 資料)資料の日付:2025年6月10日(令和7年6月10日、会議開催日)。対象地域:全国。参照箇所:「親亡き後」への備えが整備の目的であること、緊急事態の定義(介護者の障がいや疾病により家族の支援が見込めない場合を含む)、平時の事前登録から緊急時の受け入れまでの流れ。取得・確認日:2026年10月30日。
- 厚生労働省 障害福祉課調べ「地域生活支援拠点等の整備状況について」資料の日付:不明(表題は令和7年7月1日時点、本文の市町村数は令和7年4月1日時点と記載され、時点の表記が混在)。対象地域:全国。参照箇所:整備済み1,292市町村(74.2%)・未整備449市町村(25.8%)、前年(令和6年4月1日時点)1,270市町村、拠点等859か所のうちコーディネーター配置342か所。取得・確認日:2026年10月30日。
- 大阪市「地域生活支援拠点等」資料の日付:2026年10月15日(ページに表示された日付)。対象地域:大阪市。参照箇所:面的な体制整備、5つの機能ごとの担い手・事業、登録事業所のしくみと役割、利用にあたっての注意(支給決定・利用契約・自己負担・空き状況)。取得・確認日:2026年10月30日。
- 大阪市「障がい者基幹相談支援センター」資料の日付:2026年8月14日(ページに表示された日付)。対象地域:大阪市。参照箇所:センターの役割・業務、各区1か所・計24か所の設置と委託運営、利用できる人(本人・家族等)、各センターの一覧。取得・確認日:2026年10月30日。
- 大阪市「大阪市一人暮らし体験支援事業実施要綱」資料の日付:2025年10月1日(令和7年10月1日施行の改正が最新の附則)。対象地域:大阪市。参照箇所:目的、対象者、事業内容、期間・回数の上限、利用の手続(実施事業者への申込み)、委託料の定め(利用者負担の記載なし)。取得・確認日:2026年10月30日。