まゆハ行政書士事務所
親なきあと支援・民事信託コンサルタント/代表行政書士 麥生田 勇

後見制度

「後見制度支援信託・支援預貯金」とは?お子さんに成年後見人がついたあと、親が残したお金はどう管理される?――大阪家庭裁判所の運用・最高裁判所の2025年分集計と、親なきあとの備え

親なきあと、障がいのあるお子さんが相続したお金は、成年後見人がついた場合にどう管理されるのか。家庭裁判所の指示書がなければ払い戻せない「後見制度支援信託」「後見制度支援預貯金」のしくみ、利用できる類型、費用、大阪家庭裁判所の運用(後見開始時に流動資産1,200万円以上の場合に利用の検討を求めることがある)、最高裁判所がまとめた2025年(令和7年)分の利用状況を、裁判所の案内に基づいて説明し、親が今できる備えを整理します。

「親が残したお金は、子どものために自由に使えるの?」

成年後見制度そのものの説明と2026年に成立した見直しについては、成年後見制度の見直し(2026年改正)の記事をご覧ください。この記事は、その中でも「後見が始まったあとの、まとまったお金の管理」に絞って説明します。

後見制度支援信託とは:裁判所の指示書がなければ動かせないお金

裁判所のリーフレットとパンフレットでは、後見制度支援信託は、後見制度による支援を受けるご本人の財産のうち、日常的な支払いに必要な金銭は預貯金などとして後見人が管理し、通常使わない金銭は信託銀行等に信託するしくみと説明されています。信託した財産の払戻しや信託契約の解約には、家庭裁判所が発行する「指示書」が必要です。信託財産は元本が保証され、預金保険制度の保護対象にもなるとされています(保護の範囲など詳しくは信託銀行等でご確認ください)。 [1] [2]

同じ資料では、後見制度支援信託を利用できるのは成年後見と未成年後見の場合で、保佐・補助・任意後見では利用できないとされています。また、信託できる財産は金銭に限られ、不動産や動産をこの制度のために売却することは想定されていません。株式などの金融商品は、個別の事案ごとに売却・換金するかどうかを検討するとされています。 [1] [2]

後見制度支援預貯金とは:信託の代わりに銀行などへ預けるしくみ

大阪家庭裁判所(本庁)後見センターのFAQでは、後見制度支援預貯金は、通常使わない金銭を、信託の代わりに銀行・信用金庫・信用組合などへ特別な預貯金として預けるしくみと説明されています。同FAQは、信託と同様に成年後見と未成年後見で利用でき、ただし一部の金融機関では未成年後見で利用できない場合があるとしています。 [3] また、東京家庭裁判所後見センターのハンドブック(2025年4月)では、信託した財産や預け入れた財産を払い戻したり、信託契約や支援預貯金口座を解約したりするには、あらかじめ裁判所が発行する指示書が必要になると説明されています。 [7]

なお、保佐・補助の類型については動きがあります。最高裁判所事務総局家庭局が公表した2025年(令和7年)分の利用状況の資料では、後見制度支援預貯金の利用者として「成年被後見人・被保佐人・被補助人・未成年被後見人」が挙げられ、保佐・補助に関する実情調査は2025年10月から始まったと注記されています(同資料の2025年分の事件類型別の表では、保佐・補助の利用者は7人)。また、裁判所の書式ページには、保佐人・補助人向けの後見制度支援預貯金の報告書(代理権・同意権の区分ごと)が掲載されています。一方、大阪家庭裁判所のFAQには保佐・補助では利用できないという記載が残っており、保佐・補助で実際に利用できるかどうかは、担当の家庭裁判所でご確認ください。 [6] [5] [3]

利用の流れと費用――親族が後見人でも、契約は原則として専門職が行う

裁判所のリーフレットとパンフレットによる利用の流れは、おおむね次のとおりです。後見開始の申立てがあると、家庭裁判所が審理のなかで信託の利用を検討すべきかどうかを判断します。利用を検討すべきと判断した場合、弁護士や司法書士などの専門職を後見人に選任します(親族を加えて役割を分担することもあります)。専門職後見人がご本人の生活や財産の状況を調べ、信託する金額や、親族後見人が日常の支出に充てる金額などを家庭裁判所に報告し、家庭裁判所が問題ないと判断すれば指示書を発行します。専門職後見人はその指示書を信託銀行等に提出して信託契約を結び、関与が不要になれば辞任して、財産の管理を親族後見人に引き継ぎます。 [1] [2]

契約のあとの日常

裁判所のリーフレットによると、年金の受取りや施設利用料の支払いなど、日常に必要なお金は後見人が管理します。支出が収入を上回る見込みのときは信託財産から定期的に送金してもらうこともでき、臨時に大きな支出が必要になったときは、必要額と理由を書いた報告書を家庭裁判所に提出し、指示書を受けて払い戻します。逆に臨時収入などで手元のお金が多くなったときは、追加で信託する報告書を提出します。信託契約の締結後、一時金の交付、定期交付金額の変更、追加信託、解約にはいずれも家庭裁判所の指示書が必要で、収支の帳簿や領収書、信託銀行等からの報告書は保管しておく必要があるとされています。 [1]

費用については、裁判所のリーフレットとパンフレットによると、後見制度支援信託を利用すると、通常、信託契約の締結に関与した専門職後見人への報酬と信託銀行等への報酬が必要になります。専門職後見人の報酬は家庭裁判所が決め、信託銀行等の報酬は各信託銀行等に問い合わせるよう案内されています。大阪家庭裁判所のFAQも、通常、契約の締結や口座開設に関与した専門職後見人への報酬が必要になるとしています。支援預貯金について金融機関の手数料がかかるかどうかは、本記事では確認できていませんので、各金融機関にご確認ください。 [1] [2] [3]

大阪家庭裁判所のFAQでは、後見制度支援信託・支援預貯金は必ず利用しなければならないものではないとされ、利用しない場合には、家庭裁判所の判断で成年後見監督人(未成年後見の場合は未成年後見監督人)が選任されることがあると説明されています。また、利用の適否、金融機関の選択、預入額や定期交付金額の設定には専門的な判断が必要であるため、信託契約の締結や口座開設は、原則として親族後見人ではなく専門職後見人が行う扱いです。 [3]

大阪家庭裁判所の「後見等開始の申立てをお考えの方へ」でも、申立書に候補者(親族など)を書いても必ずその人が後見人等に選任されるとは限らず、ご本人に高額の財産がある場合や、親族間で療養看護・財産管理の方針に大きな食い違いがある場合には、第三者専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士)を後見人等に選任することがあると書かれています。候補者を後見人等に選任する場合でも、後見制度支援信託等を活用することがあり、また事務を専門的に監督する必要があると裁判官が判断したときには第三者専門職を後見等監督人に選任することがあり、その報酬も家庭裁判所が決めてご本人の財産から支払われるとされています。 [4]

大阪家庭裁判所の運用:流動資産1,200万円以上が目安

大阪家庭裁判所(本庁)後見センターのFAQには、金額の目安が示されています。明確な基準はないとしつつ、大阪家庭裁判所では、ご本人の流動資産が1,200万円以上となる場合に成年後見等監督人を選任する方針としており、ただし後見制度支援信託または後見制度支援預貯金を利用して、成年後見人の手元で管理するお金を100万円から500万円程度に設定したような場合には選任しないことがある、とされています。また、後見開始時点で1,200万円以上の流動資産がある場合に、後見制度支援信託・支援預貯金の利用の検討を求めているが、すべての事件で求めているわけではなく、後見事務に専門的な知識を要するなど専門職の継続的な関与が必要な場合や、ご本人の財産に株式など信託できない財産が多く含まれる場合などは、利用の検討を求めずに成年後見監督人を選任することがある、と説明されています。 [3]

最高裁判所の集計:2025年の新規利用は信託615人・預貯金2,005人

最高裁判所事務総局家庭局は、2025年(令和7年)1月〜12月の利用状況をまとめた資料を裁判所のウェブサイトで公表しています(数値は実情調査に基づく概数で、今後訂正されることがあると注記されています。資料本文に公表日の記載はなく、本記事では公表日を確認できていません)。この資料によると、2025年の1年間に新たに後見制度支援信託を利用した人は615人(信託財産額の合計は約283億7,300万円、1人あたり平均約4,614万円)、後見制度支援預貯金を利用した人は2,005人(預入財産額の合計は約585億6,400万円、平均約2,921万円)でした。制度開始からの累計は、支援信託が31,234人(2012年2月〜)、支援預貯金が13,511人(2018年1月〜)です。2025年の利用者を財産額で見ると、2,000万円以下が1,383人(53.0%)、2,000万円超5,000万円以下が762人(29.2%)、5,000万円超1億円以下が348人(13.3%)、1億円超が114人(4.4%)とされています。事件類型別では、成年後見が2,552人、未成年後見が48人、保佐・補助が7人でした。 [6]

信託・預貯金からお金を払い戻すための「一時金交付」の指示書は、2025年に708件(信託280件、預貯金428件)発行され、報告書の提出から指示書の発行までの期間は、即日または翌日が248件(35.0%)、翌々日〜7日が336件(47.5%)で、7日以内に発行されたものが約82.5%とされています。請求の理由(複数あり)で多いのは、ご本人の生活費・学費(177件)、施設入所費用(131件)、後見人等の報酬(108件)、納税(102件)、建物の修繕・解体費用(88件)、医療費(81件)でした。 [6]

知っておきたい注意点(未確認の点を含む)

  • 親が「使ってほしい形」を指定できるしくみではありません。後見制度支援信託・支援預貯金は、後見が始まったあとに家庭裁判所の判断で利用が検討されるもので、親が生前に内容を決める契約ではありません。信託する金額や手元に残す金額は、専門職後見人の報告と家庭裁判所の判断で決まります。
  • 費用がかかります。専門職後見人の報酬(家庭裁判所が決定)に加え、信託銀行等の報酬や金融機関の口座管理手数料がかかることがあります。具体的な金額は本記事では確認できていませんので、信託銀行等・各金融機関の窓口でご確認ください。
  • 保佐・補助で支援預貯金を利用できるかは未確認です。最高裁判所の集計資料と裁判所の書式ページには保佐・補助類型の記載がありますが、大阪家庭裁判所のFAQは「利用できない」という記載のままでした。運用の変更が各家庭裁判所にどのように反映されているかは本記事では確認できていませんので、担当の家庭裁判所でご確認ください。
  • 取扱金融機関は限られます。支援信託の信託先は信託銀行等であり、支援預貯金を取り扱う銀行・信用金庫・信用組合も限られています。大阪で利用できる金融機関の一覧は、本記事では確認できていません。専門職後見人や家庭裁判所にご確認ください。
  • 2026年に成立した成年後見制度の見直しによる影響は未確認です。本記事で使った裁判所の資料は見直し前の運用を説明したもので、見直しの施行後に後見制度支援信託・支援預貯金の運用がどう変わるかは、本記事では確認できていません。
  • 金額の目安は大阪家庭裁判所本庁のものです。流動資産1,200万円、手元100万円〜500万円程度という数字は大阪家庭裁判所本庁後見センターのFAQによるもので、支部や他の裁判所では異なることがあります。

親なきあとに向けて、今できること

以下は公的な事実ではなく、当事務所からの編集上の提案です。

  • 「子に残す財産の額と形」を書き出してみる。預貯金、保険金、不動産、株式など、お子さんが相続する見込みの財産を整理し、お子さんに法定後見がついた場合に、流動資産がどのくらいになるかを把握しておきます。大阪家庭裁判所本庁の管轄にお住まいで、流動資産がその目安(1,200万円)を超える見込みなら、後見制度支援信託・支援預貯金や後見監督人の選任が検討される可能性があることを前提に、今後の備えを考えます(ほかの地域では、担当の家庭裁判所の運用をご確認ください)。整理の仕方は本人の希望と暮らしを整理する相談メモの記事を参考にしてください
  • 後見人になる可能性のある家族と、しくみを共有しておく。兄弟などが後見人の候補になる場合でも、専門職が選ばれたり、まとまったお金は指示書がなければ動かせなくなったりすることを、前もって知っておいてもらうと、親なきあとの戸惑いが小さくなります。法定後見の申立書類の作成は司法書士・弁護士の業務ですので、実際の申立ては専門職にご相談ください
  • 「渡し方」を親が決める方法と組み合わせて考える。後見制度支援信託は後見が始まったあとのしくみですが、親が元気なうちに決められる方法もあります。遺言で誰に何を残すかを決めること、民事信託(福祉型信託)で信頼できる受託者にお子さんのための財産管理を託すこと、障害者扶養共済制度のように一時金ではなく年金の形で受け取るしくみを使うことなどです。どの方法が合うかは、お子さんの判断能力の程度、財産の内容、支える家族の有無によって異なります。民事信託は後見制度とは別の制度であり、後見制度支援信託と置き換えられるものではありません
  • ふだんのお金の管理は、別のしくみも検討する。日常の金銭管理や通帳の預かりには、日常生活自立支援事業(大阪市のあんしんさぽーと事業)のような福祉のしくみもあります(利用できる条件は記事・窓口でご確認ください)
  • 親自身の判断能力が低下したときの備えも、同時に。親御さん自身については、判断能力があるうちに任意後見契約・見守り契約を結んでおく方法があります。親自身に成年後見(後見類型)が始まると、親の財産についても同じように後見制度支援信託等の検討対象になり得ますので、親子両方の備えをあわせて考えてください

参考情報・出典

  1. 裁判所「ご本人の財産の適切な管理・利用のための 後見制度支援信託のご説明」(リーフレット)資料の日付:2011年12月(平成23年12月、最高裁判所。改訂日の記載なし)。対象地域:全国。参照箇所:制度の説明(日常の金銭は後見人が管理、通常使用しない金銭を信託)、利用できる類型(成年後見・未成年後見のみ)、信託できる財産(金銭のみ)、利用の流れ、指示書が必要な場面、費用、元本保証・預金保険。取得・確認日:2026年11月2日。
  2. 裁判所「成年後見制度 ―詳しく知っていただくために―」(パンフレット)資料の日付:2017年10月(平成29年10月、最高裁判所)。対象地域:全国。参照箇所:後見制度支援信託の説明(8〜10ページ)、保佐・補助・任意後見では利用できない旨、金銭のみ信託できる旨、利用の手続、費用、後見人の選任(最も適任と思われる方を選任、一定額以上の財産がある場合は専門職を選任する運用が一般的)。取得・確認日:2026年11月2日。
  3. 大阪家庭裁判所(本庁)後見センター「よくある質問(FAQ)」資料の日付:不明(資料に作成年月の記載なし。URLに「2023nendo」「R5_renewal」とある)。対象地域:大阪家庭裁判所本庁の取扱い(堺支部・岸和田支部は一部異なることがあると明記)。参照箇所:後見制度支援信託・支援預貯金のQ&A(利用できる類型、しくみ、必ず利用しなければならないか、費用、親族後見人だけで手続できるか、元本保証)、Q19・Q20(流動資産1,200万円以上で成年後見等監督人を選任する方針、手元100万円〜500万円程度に設定した場合、利用の検討を求めない場合)。取得・確認日:2026年11月2日。
  4. 大阪家庭裁判所「後見等開始の申立てをお考えの方へ」(リーフレット・手引・申立書類一式)資料の日付:不明(申立書の見本に「令和6年4月版」、法務局等の一覧に「令和5年1月現在」とあり、資料全体の作成年月は確認できず)。対象地域:大阪家庭裁判所。参照箇所:候補者が必ず選任されるとは限らない旨、高額の財産がある場合や親族間の方針の食い違いがある場合に第三者専門職を選任することがある旨、後見制度支援信託等を活用することがある旨(成年後見・未成年後見に限られる)、後見等監督人の選任とその報酬がご本人の財産から支払われる旨。取得・確認日:2026年11月2日。
  5. 裁判所「成年後見人・保佐人・補助人の報告書式/後見制度支援信託・支援預貯金関係書式」資料の日付:不明(ページに更新日の記載なし)。対象地域:全国。参照箇所:後見制度支援信託の書式は成年後見人・未成年後見人向けのみ、後見制度支援預貯金の書式は成年後見人・未成年後見人向けに加えて保佐人・補助人向け(代理権・同意権の区分ごと)が掲載されていること。取得・確認日:2026年11月2日。
  6. 最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について -令和7年1月~12月-」資料の日付:不明(URLのファイル名に「20260529」とあるが、資料本文での公表日は確認できず。集計期間は令和7年1月〜12月)。対象地域:全国。参照箇所:利用実績(信託615人・約283億7,300万円・平均約4,614万円、預貯金2,005人・約585億6,400万円・平均約2,921万円、累計31,234人・13,511人)、財産額の分布、事件類型(成年後見2,552人・未成年後見48人・保佐・補助7人、保佐・補助の調査は令和7年10月から)、一時金交付の指示書708件・7日以内約82.5%・請求理由別件数、数値は概数で訂正されることがある旨の注記。取得・確認日:2026年11月2日。
  7. 東京家庭裁判所後見センター・東京家庭裁判所立川支部後見係「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」資料の日付:2025年4月(令和7年4月)。対象地域:東京家庭裁判所(制度の一般的な説明として参照)。参照箇所:後見制度支援信託・後見制度支援預貯金の概要(37ページ:日常的な支払に必要十分な金銭を後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託または預け入れる仕組み、払戻し・解約には裁判所が発行する指示書が必要)。取得・確認日:2026年11月2日。

後見制度支援信託と当事務所への相談について

後見制度支援信託・支援預貯金の利用は、後見開始の申立てを受けた家庭裁判所が判断し、契約は原則として家庭裁判所が選任した専門職後見人(弁護士・司法書士等)が行います。法定後見の申立書類の作成は司法書士・弁護士、登記は司法書士、税務は税理士・税務署、障害年金は社会保険労務士、紛争に関することは弁護士の取り扱いです。

当事務所は、親なきあとに向けてお子さんに残す財産の額と形を整理し、遺言書・民事信託契約書・任意後見契約書・見守り契約書などの文案作成でお手伝いし、内容に応じて家庭裁判所の手続を扱う専門職や相談支援の窓口へおつなぎします。

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